第1回 幼児教育における「EQ」と「IQ」(後編)|幼児教育・幼児教材の「まいとプロジェクト」

第1回 幼児教育における「EQ」と「IQ」(後編)

はじめに

前回では、EQやIQの正体が、実は知性の一部だと言うことをお話ししました。さて、今回のこのコーナーでは、この知性は複数あるということを、少し詳しくお話しします。

前回「幼児教育における EQ と IQ 」(前編)を見る

やや専門的になりますが、このように知性は「複数」あります。「知性の多重性」と呼ばれるものです。これは、著名な認知心理学者のハワード・ガードナーが提唱した、「多重知性理論」によるもので、知性は1つではなく多数の並列した知性からなっている、と言うものです。
簡単に言うと、人間の知性は1つのみではなく、複数の知性が多重して存在しており、その各々はある程度独立した知性として働き、相互に関与している、と言ったものです。

そして、その知性とは、言語的知性、論理数学的知性、空間的知性、芸術的知性(絵画&音楽的知性)、身体運動的知性、社会的知性(対人関係知性)、感情的知性(心内知性)、等々があります。
つまり、この中にEQ(社会的知性や感情的知性)やIQ(言語的知性や論理数学的知性や空間的知性等)も含まれることになります。

人間が「人」たらしめる最大の要諦は、「脳」が大きい事です。
そしてその脳が、思考し、話し、行動し、社会を作り、文化を築いてきました。
但し、その脳には一定の「仕組み」があります。人間ならば、逃れることの出来ない事実と言っても過言ではありません。

人間なら誰でも逃れられないその仕組みとは・・・・・。
「人の脳は、生前生後の約6年6ヶ月で、その子どもの人生(夢)を実現するに必要な知能を形成する」と言うことです。

逆説的に言うと、この期間に適切な教育が無いと、その後、努力の程度にもよるが自ずと限界が生じるという事実があります。(臨界期における絶対音感等。残念ながらこの事が分かっている親に育てられた子と、そうでない子とでは、ある時に自分の才能を「開花」させるのに圧倒的な差別が生じてしまいます。そして、最も重要なのが、その環境を与えることができるのは養育者であると言うことです。決して、小学校前の子どもが自分からは環境を選択することはできません。)

この「6年6ヶ月」と言うのは、「まいとプロジェクト」的な語呂合わせに過ぎません。

一般的には、生後8〜12年位と言われています。
子育てには生前&生後の数年間が重要であると言われています。
つまり、ある日妊娠を気づき、我が子が一定の細胞集から脳の原始体を形成し、そして成長し出産までが約6ヶ月。そこから、日本の義務教育制度の小学校入試(入学)までが6年。
つまり養育者が強く幼児教育の環境をコントロールできる期間が生前の6ヶ月と生後の6年と言えます。この生前生後の期間の「子育て期」が、その子の可能性を開化させるのにとても重要なのは、認知心理学的にも、脳科学的にも、さらには現場教育者の観点からも、まぎれもない事実です。

(今回のテーマ、「EQとIQ」について、この解説のコーナーは以上です。知性の多重性と、その知性を作る脳の仕組みを理解していただけましたか?)

さて、前回同様に引き続き、るりる〜先生と吉木先生とで「幼児教育における EQ と IQ 」について対談を進めていただきたいと思います。

幼児教育における「EQ」と「IQ」 (後編)

宮本みきお

吉木先生、先ほど「母性本能」だけでは、子どもは育たないと言いましたが、具体的にはどの様な事でしょう?

吉木稔朗先生

母性本能では子供が育たない一例を申し上げましょう。

よちよち歩き出した赤ちゃんが、お母さんを見つけて駆けよろうとします。すると上手に走れないので、転びます。転べば痛いのです。痛いから赤ちゃんは泣きます。もしあなたがその赤ちゃんのお母さんならどのような行動を取りますか。

  1. 1. 転ぶ可能性があるので、赤ちゃんが走り出す前に駆けより抱き上げる
  2. 2. 転んで痛がるので、あわてて抱き起こし、あやす
  3. 3. 起き上がるまで待つ

私は、教育は3だと考えています。赤ちゃんの身の危険に本能的に対処するのは、1と2です。3はちょっと違います。転んで泣いている赤ちゃんを抱き上げたいのはお母さんなら誰でも思うことでしょう。むしろ、転んだ赤ちゃんを起き上がるまで待つことはお母さんにとっても辛いことかもしれません。

しかし、赤ちゃんが痛いと学習し、自分で起き上がることを覚えることはとても重要なことです。赤ちゃんは将来自立して行かなければなりません。大げさの表現かもしれませんが、今ここで抱き上げたら、ずっとお母さんは赤ちゃんを、大きくなってからも抱き上げて行かなければならなくなるのです。いつまででしょうか。多分、大きくなってからの結婚式、新婚旅行、そして新生活、全てお母さんがついて行かなければならなくなるでしょう。

ですから、心を鬼にして、起き上がるのを待って、そして、自分で起き上がったら、しっかりと抱き締めて上げましょう。

「いい子ね。ちゃんと起き上がれたね」と。

もちろん、命にかかわるようなことには、そのことが起きる前にお母さんは有無をいわず手を差し伸べ、そのあとで、なぜいけないのかをしっかり教えましょう。例えば、道路を確認しないで横断しようとしたとき、横断してからでは取り返しのつかないことになるかもしれません。そのときはすぐ止めさせ、なぜ横断してはいけないかを、時には強い口調で教えなければなりません。
こうした愛情があって、教育がなされていくと、IQ・EQの揃った子供として成長していくことができると思います。

宮本みきお

「愛情」は、幼児教育にはとても大切なことです。ですが、最近の若いお母さんの中には、この「愛情」をうまく与えることが出来ない方も多いようですが、るりる〜先生は、どう指導してますか?

佐藤るり子先生

「愛情」とは、何でしょうか?我が子にスキンシップを与えること、我が子により良い教育環境を作ること、我が子の成長を楽しみに見守ること・・・等々。きっと、ご両親はどれも大切だと思い、一生懸命に我が子の成長を願い、努力しておられることだと思います。
昨今、三面記事になるような幼児虐待などの悲しい事件は別として、我が子に愛情を持たない親御さんはいないと思います。
問題なのは、誰もが持っている「愛情」に関する「適切な与え方」です。愛情だと思いこみ、子どもの行く先々の危険や失敗を親が排除・除外してしまったり、友だちと遊ぶことで、我が子が傷ついてしまうことを恐れ、その機会を旨く与えられなかったり・・・。その時は、そのまま事なきを得て通り過ぎたとしても、同じ様な事柄が、その子の人生で起こったときの解決方法を、その子自身が知っていなければ、その子は、後の人生を生き抜いていくことは出来ないと言う事です。
幼児が、学習をしていく際に必要なことは、「いかに多くの失敗を体験させてあげられるか」だと、私は考えます。

例えば、我が子がコップでジュースを飲んでいる時に、ジュースがこぼれそうになった時、お母さんはどの様な行動に出るでしょう?

  1. 1. こぼれる前に、我が子の手からジュースを取り上げているか、
  2. 2. 我が子にコップを持たせず、お母さんが持って飲ませているか、
  3. 3. 倒してもこぼれない入れものに変えているか、
  4. 4. こぼした我が子を叱っているか・・・・・。

どうでしょうか?

正解は1〜4のどれでもありません。大切なことは、ジュースがこぼれることをあえて経験させ、その状態を脳に記憶させることなのです。そこから、こぼれない持ち方や、こぼれた後の後かたづけの仕方を学習していきます。そして、こぼさずに飲めたその瞬間を逃さず、たくさん誉めてあげることなのです。それが、「愛情」です。大好きなご両親に誉めて貰ったお子さんは、次の機会にも、誉めて貰いたいと脳が働き、動作の記憶を再生します。そして、確実に自分で飲める様になっていきます。
もし、この経験を知らずに成長をしたら、どうなるでしょうか?いつまでもお母さんが側にいて、こぼれないように見てあげられるでしょうか?

また、子ども同士の喧嘩を嫌がるご両親が増えていますが、喧嘩は、「子ども社会」での社会性の発達の芽生えでもあります。喧嘩をするからこそ、他人の痛みを知り、身体の大切さを理解し、思いやりの心が芽生えるものです。ですが、最近のご父兄は、喧嘩の前に介入をし、止めさせてしまいます。これでは、友だちとの関わり方、危険の度合い、痛みや思いやり、謝るという大切さを理解することが出来ずに成長をしてしまいます。よほど身の危険の無い限りは、喧嘩をさせてあげて欲しいと思います。(子どもの初期の喧嘩の大半は、おもちゃ等の物の取り合いといった類です。) そして、危険な事(例えば、おもちゃを人に向かって投げたり、ぶつけたりする行為)に関しては、とことん話し、叱り、教えてあげなければいけません。

「愛情」とは、決して過保護にすることではありません。失敗だと思いながらも見守り、失敗する我が子を認め、立ち直る事の大切さ、更には次へのステップを踏める強さを与えられるご両親であって欲しいと願っております。

宮本みきお

お二人とも「愛情」が幼児教育にとってとても大切だと言うことがよく分かりました。
ところで、吉木先生と言うと、どうしても「IQ200天才児は母親しだい」のイメージが強いのですが、別な本も書かれているようですが?

吉木稔朗先生

「IQ200天才児は母親しだい!」という本のタイトルが故に、技術書と勘違いされている読者の方が多かったので、「母親だからできる驚異の天才教育」という本を書いて、お母さんの愛情ということを強調したのですが、こちらの本の売れ行きはあまりよくないようです。やはり、タイトルというのは重要な要素だと思わされます。
ただ、両書とも技術書ではなく、愛情に基づいた天才教育(技術)のノウハウ書です。

私が天才教育という言葉を口にすると、必ず
「そんな子供の頃から詰め込まなくても」という言葉を耳にします。
しかし、私に言わせれば、詰め込み教育ではなく、赤ちゃんにとっては遊びです。その遊び方を教えているに過ぎません。遊び方の工夫によって天才児になっていくのです。子供の頃から勉強勉強の日々を過ごしなさいといっているのではありません。小学校までは、畑に例えるなら、よく耕し、肥料を施し、豊かな土地にする段階だと思います。その上で、種を蒔けば、作物が豊かに実るのです。種を蒔いて芽が出てから固まった土地を耕すことはできないのです。

宮本みきお

るりる〜先生も、よく「種まきの話」をご両親に話しますが。

佐藤るり子先生

教室では、「教育は種まき」とか「知識は氷山の一角」などで例えます。
良い芽が育つには、畑が肥えていなければ芽は育ちません。まして、そこに大輪の花を咲かせ、実となるには、常に適度な水や栄養を与え、環境を整えていかなければなりません。
我が子の土壌を耕すのは、ご両親であり、種は、これから芽を出すかも知れない我が子の可能性です。その種は沢山であればあるほど、多くの芽となり成長をしていきます。

では、成長を促すには −知識となり実を結ぶには−何が大切なのでしょう・・・?

第一に、お子さんの情緒の安定、次に社会性と生活力の発達、最後に知識の上乗せです。
この情緒の安定と社会性の発達の土台なくしては、いくら知識を乗せたとしても、いずれバランスがくずれて崩壊してしまうからです。EQを高めることによって子どもは自分のIQをより豊かに発揮することが出来ると言うことです。

能力開発や習い事などを利用して、蒔くだけ蒔いて、後は放って置いたら?それは、蒔かない状態と同じです。幼児は、繰り返すことで脳がその一連の行動を記憶し、その子の力となっていくのです。躾が片手間では出来ないのと同じように、様々な知識も、繰り返さなければ実にはなりません。ですから、躾であり、技術、知識の習得には、親子共に根気とやる気が必要です。それも、9才までに、そのやる気と根気と達成感を脳に記憶させておいてあげることです。

こんな事がありました。生後9ヶ月のお子さんとお母さんが、教室に体験に来ました。同じくらいの誕生日のお子さんが8人位いる中で、その子だけは、座った場所から動きもせず、笑いもせず、動くボールに興味も示しませんでした。その子のお母さん曰く・・・子どもが嫌いで、遊び方が解らない、泣いたりするのが嫌でたまらない、黙っていると静かなので、その方が育てやすいと思ったと・・・。これは、希なケースかもしれませんが、僅か生後9ヶ月で笑うことすら学習出来ず、表情を変えることすらしない子どもが育つということを身近で感じた瞬間でした。全く、種まきの無い状態だったのです。

でも、そのお母さんの偉かったところは、子どもたちの集まる集団に、嫌でも来た!ということです。遊び方が解らなければ、お母さん自身も学べば良いんです。お母さんも「我が子と一緒に成長する」ことが出来ればベストです。その子は、2ヶ月で変わりました。良く笑い、良く動き、何にでも興味を持つように変わりました。勿論、お母さんも変わりました。育児に自信が持てるようになってきたことと、同じ子どもを持つお母さん同士、悩みを共有できる友だちができました。育てる側にとっても、情緒の安定のEQ、子どもの成長発達に対しての知識が、我が子の成長に欠くことの出来ない、大切な要素だということです。
幼児の学習とは、決して詰め込みなどではありません。様々な事柄にいかにたくさんの興味や関心を持たせてあげられるかと言うことです。我が子の脳は、常に成長過程にあり、1つの刺激で成長発達に多大なプラス効果があるということを、忘れないで下さい。

宮本みきお

吉木先生も、るりる〜先生も、立場もキャリアも違いますが、お二人の考え方には多くの共通点があり、また、幼児教育に対する思いも熱いものを感じました。
特に、EQとIQという切り口から幼児教育を考える時、この対談は、大変興味深く、また、貴重な体験となると思います。次回もよろしくお願い致します。

次回は、今回の対談の中でも挙げられた、「幼児期における適切な教育」「脳の臨界期」をテーマに対談をしていただく予定です。

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対談者プロフィール

吉木稔朗先生

吉木稔朗先生

神奈川大学法学部法律学科卒。早期教育の友人の死を契機に研究を引き継ぎ、現在、ヨシキ幼児教育研究所主催。主たる著書に「IQ200天才児は母親しだい!」「母親だからできる驚異の天才教育」「天才児を育てた24人の母親」などがある。

佐藤るり子先生

佐藤るり子先生

幼児教育学部卒。幼児教育学部専攻科修了。
首都圏の私立幼稚園教諭を経て、大手民間の幼児教育事業部において講師及び教室長を担当。首都圏エリアの運営及び講師育成並びに教育プログラム開発等を手掛ける。現在、幼児才能開発プロジェクト「まいと」専任講師。

宮本みきお

宮本みきお

立教大学経済学部経営学科卒。経営コンサルタント。大手民間の人材バンク及び人材開発の企業を経て、現在、コンサルティングファームを経営。

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